木更津駐屯地航空際

木更津駐屯地航空際
2019年12月8日木更津駐屯地航空際にて撮影

2011年4月9日土曜日

虐殺器官 読了


虐殺器官 読了
伊藤計劃/著 早川書房/刊 20100215発行720円 ハヤカワ文庫JA984
 放射能汚染で一躍ニュースや新聞の名を載せるようになった、福島県の寒村「飯舘村」。行った事はありませんが、村に図書館は無く、図書館をつくる代わりに村営の本屋をつくった自治体として有名な所でした。どうして有名かというと、例えば巨大な天災や原発事故のような災害が万が一にも生じたとしましょう。そうした時に、災害時にどう行動したらよいのかとか、原発とは何ぞやから始まり、災害の種類や放射能はどう対処したらよいのか、災害時の申請は何処へ出したらよいのか、確定申告や税金はどうしたらよいのか等等、それぞれの専門機関に問い合わせるのもよいでしょうが、図書館であれば「東京に原発を」から「原子力白書」まで資料を町民は無料で見ることができます。もし当該図書館に無ければ、先ずは福島県立図書館や他の市町村立図書館から資料を送ってもらったり、東日本震災において特例で必要な資料をFAXで送ってもらう事も出来ます。単に地震が起きたときの各新聞を福島民報・福島民友のみならず、朝日読売毎日産経日経等を眺めることも可能です。でも図書館が無ければできない事が多いと思います。
 これらの行為は「書店」では不可能なことばかりです。ましてや「金持ち」でなければ情報を得ることができません。もし災害で無一文になった人でも、公立図書館ならば誰でも無料で情報を入手することは可能なのですが、飯舘村では出来ないと云う事になります。ちなみに埼玉県のさいたま市では双葉町の人々を受け入れただけでなく、原則さいたま市民か通学通勤者にしか登録できない図書館の利用券も、住民票を移さず避難して来た人々には発行するそうです(詳しくはさいたま市へ)。
 全ては図書館をつくらず村営書店をつくった村民と民主的に選ばれた代表者の意思であるので、他人の拙者がとやかく云う事ではありませんし、図書館を維持する金を毎年使うくらいなら図書館はいらんと判断した考えもまた尊重したいと思いますが、いざ事が起きたときに右往左往して、やれ情報が届かないとか放射能への知識が無いとかなんとか、自分達の自由意志で選択した結果なんのではないでしょうか。もしかしたら飯舘村の村民は「図書館」の使い方を知らなかったのかもしれません。知らない事を利用して、単に目先の利益だけをぶら下げて、税金のかかる「図書館」と、いちいち福島市か相馬市へ行かなければ購入できない本を買える「書店」とどちらが欲しいですか?ジャンプを図書館では買いませんよ、と云われればインテリでもなければ書店に手をあげてしまうことでしょう。同じ福島県の矢祭町でも似たような事をしています。図書館はつくるだけではなく、維持し職員を育てる手間隙と「お金」がかかります。
 近代民主主義がフランスで生まれたとき、民主主義の基本として教育機関を国が保証する法がつくられました。学校・図書館・公民館です。現在の日本では図書館・公民館は各地域自治体にまかされています。地域で人を育てるのは未成年に対する「学校」のみならず、全市民に開放された「図書館」と「公民館」も必要な施設であると考えます。民主主義がいらないなら無くともかまいませんが、民主主義を維持したいという思いが少しでもあるのならば、資料室みたいな小さな図書館でもいいから常勤職員と共に設置していただきたいものです。余談が長くなりました。

 さて「虐殺器官」。近未来、世界の紛争地帯で暗殺をしている主人公達は謎のアメリカ人の影を追うようになる。何も問題の無かったはずの国や地域が、宗教紛争・民族紛争の果てに虐殺を開始してしまうのは謎のアメリカ人が何かを仕掛けているのではないのか。主人公達の追跡行が始められる。
 先行する似たような作品群に国内だけでも押井守や士郎正宗や神林長平と云った面々がおり。さらに海外を含めれば膨大な類似作が列挙されます。しかし、それらとの大いなる違いは、これほど注目をあびた原因は、その作家性にあると思われます。著者伊藤計劃はガンによる闘病生活の末2009年3月に死亡し、作家活動が3,4年しか無く、ブログ等により闘病生活もまた公開されていた点が、創作された物語に著者伊藤計劃の人生を反映させてしまうのでしょう。
 拙者の知る作家(小説家ではありませんが)さん達は口を揃えて、作品は作品としてだけ見て欲しい、と云います。でも買う側からだとどんな作品もそうですが、作品背景も含めての物語を得たいが為に“買う”のだと思います。黒澤明の映画が黒澤明の人生と共に語られるように、小説では「舞姫」が森鴎外の人生や、夏目漱石、島崎藤村、若山牧水、芥川龍之介、太宰治、三島由紀夫等等、教科書にのる作家がどうして作家の人生と共に授業で教えられるのかを考えれば、なんとなく分るのではないでしょうか。ただ日本において作家性は近代以降の産物なので、それ以前の人々の記録が保存されていない場合ば多い事が他の先進国との違いになるのでしょうか。
 ストーリーの中で何らかの形で幾多の無辜の市民が死んで生きます。個としての死、生物としての死、そして種としての死。これらが著者伊藤計劃自身が死期を自覚したが故に、なおいっそう鬼気迫る勢いで“死”と死の先にあるものを見据えようとする説得力を生んでいるのではないかと思わせてしまいます。そして個人が突然死んでいなくなるように、国家や民族や組織もまた突然無くなってしまう、その虚無性にもまた説得力を与えているように感じました。

 内容紹介:第1回PLAYBOYミステリー大賞【国内部門】第1位。大量虐殺を誘発する、謎の器官とはいったい? 米国情報軍大尉はその鍵を握ると目される謎の男を追って、チェコへと飛ぶが……。
現代における9・11における罪と罰を描破して大きな話題を読んだゼロ年代最高のフィクションが、満を持してついに文庫化を果たす!
推薦●小島秀夫(「METAL GEAR」シリーズ監督)・宮部みゆき
 内容(「BOOK」データベースより):9・11以降の、“テロとの戦い”は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす“虐殺の器官”とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。
 著者について:1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒。2009年病没。2007年、本書にて作家デビュー。「ベストSF2007」において第1位を獲得した。他の著作に第30回日本SF大賞受賞作『ハーモニー』、人気ゲームのノヴェライズ作品『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』がある。
 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 伊藤 計劃:1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』で作家デビュー。「ベストSF2007」「ゼロ年代ベストSF」第1位に輝いた。2008年、人気ゲームのノベライズ『メタルギアソリッドガンズオブザパトリオット』に続き、オリジナル長篇第2作となる『ハーモニー』を刊行。同書は第30回日本SF大賞のほか、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門を受賞した。2009年没(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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