武士の家計簿 観了
原作新書を発売当時読んだのですが、最早記憶の彼方なれど、映画になるような物語ではなく、どちらかと云うと江戸後期から幕末明治にかけて武士がつけていた詳細な家計簿を元に当時の世相風俗等を紐解くような内容だったはずなので、どのように映画化されているのか興味を持って観に行きました。
容貌魁偉として描かれる大村益次郎を怪優・嶋田久作が演じていて、凄く合っているように思えました。ワンシーンのみなのが残念。
昨今「たそがれ清兵衛」以来藤坂周平を筆頭に人間ドラマを中心としたチャンバラ物が流行ってきた感があります。今作品はチャンバラが出てこない時代劇としては秀逸な、ホームドラマに仕上がっていました。
司馬遼太郎の小説・エッセイを土台に考えると、江戸期の武士はひたすら礼儀の“型”に嵌め込む教育であり日常であったと思われます。日常家族間でも敬語を使い合い、正座のシーンばかりで今の感覚ならば堅苦しいような生活様式も、武士の日常を考えるならば当たり前の映像を当たり前に映していると思えます。
朝日新聞の評で食事シーンの家族構成が同じ場でありながら時間経過と共に変化させて行く監督の手腕が云々とありましたが、正にそのようです。森田監督はデビュー当時から印象的な食事シーンを撮る事で有名ではないでしょうか。拙者としては和蝋燭が画面上常に使用されている点に注目してしまいました。当時蝋燭は高価な品なので、武士と云えどもそうそう日常に使われていたとは思えませんが、そこは映画的演出なのでしょう。ましてや城内の残業で独り蝋燭を灯す事ができたのか、おそらく資料にも無い事なので有無の証明は出来ないでしょう。猪山家が緊縮財政期に蝋燭から油皿に替りまた蝋燭に戻るのを見て、弁当や日々の食事で貧富を見せているとともに、演出の妙に感じ入りました。
ホームドラマである以上仕方無い事かもしれませんが、照明によって屋内や屋外が今一つ雰囲気が削がれてしまい残念。セット感丸出し。特に影が…。屋内はもとより、ラストの父猪山直之(堺雅人)を背負う息子猪山成之(伊藤祐輝)の泣かせるシーンなのに、石垣の写る家族三人の影があまりにも人工照明に見えて興醒めてしまいました。最近NHKの時代劇が日本家屋の暗さや照り返しを上手に表現するようになってきているだけに気になってしまいました。照明を気にする方が可笑しいのかも知れませんが。
拙者が一番美々しく印象に残ったシーンは、タイトルの字でした。昨今の題字の中では一番美麗なタイトルでした。エンディングロールによると題字は村田清雪だそうです。でも何か違和感があり、今更考えると、字が左横書きでした。最早左からの横書きが当たり前に成ってしまうとは、日本文化の断絶も行き着く所までに至った感がします。今後は右書きに違和感を憶える人が日本人を名乗るようになっていくのでしょう。昭和後半に丸文字化が話題になった時に拙者が思い至ったのは、左書きに対応した結果による変化でした、漢字やひらがな片仮名は縦書き文字であり、本来左横書きでは書き辛い字形なのではないでしょうか。さらに最近はケータイ文化の影響か、小説が横書きゴシック・フォトンによる版型となり拙者は読み難くてしかたありません。まあ、コレクションしたくなるような内容の書籍は従来通りなので、今の所実害は無いのですが、電子書籍が普及すると益々増えるであろうと今から杞憂しています。
エンディングロールに大正大学が出ていましたが、どのような関わりなのか不明、不思議。
(以下yahooおよび公式HPより引用)
原題: -
製作年度: 2010年
別題: -
製作国・地域: 日本
上映時間: 129分
スタッフ
監督:森田芳光
製作総指揮:-
原作:磯田道史
音楽:大島ミチル
脚本:柏田道夫
企画協力:新潮社
プロデューサー:元持昌之
撮影:沖村志宏
照明:渡辺三雄
録音:橋本文雄
編集:川島章正
美術:近藤成之
キャスト
堺雅人(猪山直之)
仲間由紀恵(猪山駒)
松坂慶子(猪山常)
西村雅彦(西永与三八)
草笛光子(おばばさま)
伊藤祐輝(猪山成之)
藤井美菜(猪山政)
大八木凱斗(猪山直吉(後の成之))
嶋田久作(-)
宮川一朗太(-)
小木茂光(-)
茂山千五郎(-)
中村雅俊(猪山信之)
解説: 磯田道史原作のベストセラー「武士の家計簿『加賀藩御算用者』の幕末維新」を、森田芳光監督が映画化した異色時代劇。代々加賀藩の財政に携わり“そろばんバカ”と呼ばれた下級武士が、妻の支えを得ながら一家、そして藩の財政を切り盛りしていく姿を描く。主演は、『南極料理人』の堺雅人、彼の献身的な妻役に『ごくせん』シリーズの仲間由紀恵。先行き不透明な現代にも通じる、幕末維新の激動の時代をたくましく生き抜いた主人公一家の姿が胸を打つ。シネマトゥデイ(外部リンク)
あらすじ: 会計処理の専門家、御算用者として代々加賀藩の財政に携わってきた猪山家八代目の直之(堺雅人)。江戸時代後期、加賀百万石とうたわれた藩も財政状況は厳しく、加えて武家社会には身分が高くなるにつれ出費も増えるという構造的な問題があった。直之は、家財道具を処分し借金の返済にあてることを決断し、猪山家の人々は一丸となって倹約生活を実行していく。
シネマトゥデイ(外部リンク)
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