勝つために戦え!〈監督篇〉 読了
押井守/著 野田真外/構成 徳間書店/刊 20100228第1刷1500円
野田真外が聞き手の映画監督「押井守」のインタビュー集。現在第三弾まで発刊。監督篇は第二弾にあたります。
押井守に興味がある人には必読。
映画を撮りたい人も必読。万が一(そんなことは無いけど)にも私が映画やアニメについての講義をするなら本書をテキストとすることでしょう。
映画と云えば、10月8日金曜日朝日新聞夕刊3版7面に載っていた作家で映画評論家の阿部和重が映画「A.I.」について書いていて、内容に仰天しました。「A.I.」は2001年製作のスピルバーグの映画。TVでも放送されているのでご覧になった方も多数いるでしょう。私は劇場で観ました。映画を観ようとしたらトイレでメガネのレンズを割ってしまい払い戻してもらったり、再度挑戦したら上映時間を間違えてチケットを変更してもらったり、艱難辛苦を乗り越えて観た映画なのですが、それ以上に映画の内容が難解でずっと心に残っていました。話はズレますが、私の職場に中学生が職場体験にやってきます。「あいさつ」と「守秘義務」を繰り返し教えるとともに、大学受験までの学校教育は設問に対して正解が必ずあるクイズだけれども大学や社会では答えはあっても正解は無い、と云う事も繰り返し唱えます。同じ様に映画をどう見ようと千差万別、見た人の数だけ答えが存在してあたりまえです。で「A.I.」については、ピノキオのパロディ、大人になりきれない監督自身の投影、実は鉄腕アトムへのオマージュではなかろうか、等と考えつつ腑に落ちる答えを導き出せないまま約10年を経ました。しかして阿部和重の「A.I.」論を読んだときに、文字通り目から鱗が落ちました。同じモノを見ていてもかように観方が違うものなのか!これがプロになれる人の思考能力と文章能力なのだろうか!
そんでもって押井守。映画が好きで映画を勉強して映画を撮って、運命の妙でアニメ映画「うる星やつら オンリーユー」で監督デビューをしたためにアニメ作家の肩書きを得てしまいましたが、実写映画も数々撮っています。その映画監督押井守が映画監督として存在し続ける(映画を撮り続ける)行為をしてこその「勝ち」名乗りを挙げられるとの持論を展開します。映画監督は映画さえ撮れば名乗れる肩書きですから、学生だろうがプーだろうが1本撮れば名乗ることが可能です。でもプロとして監督の肩書きで食べていくには才能ばかりでなく戦略も戦術も必要だと述べています。無論プロとして生きてきた押井守の言ですから押井守の理論でしかないのですが、先人の言として謙虚に聞けば応用がいくらでも効くことでしょう。
ほとんどの場合映画監督になりたいとか何に成りたいとか云うだけで過している人は、口先だけで実際に行動することがありません。そう云う人の映画評論で面白い話を聞けたためしがありません。行動する人は映画撮るから参加してくれとか見てくれと云います。そして行動する人の批評は好みかどうかは別にして聞いて面白いし新たな発見があります。人間の思索は行動を通してのみ形成されます。ただ眺めているだけでは説得力を持ちえません。
本書はどの章を読んでも納得することばかりでした。
内容紹介:コミックリュウ連載の企画を単行本化。著者と関わりの深い様々な映画監督たちの作品や生き方について語る。毒舌交じりに綴られる映画論&人物論は、ファンならずとも刺激的な一冊。
内容(「BOOK」データベースより):映画監督にとって「勝利」とは何なのか?アニメ界一の論客である押井守が、さまざまなタイプの監督たちの勝利条件をピタリと言い当て、ズンバラリと斬る。
著者について 押井守●おしい・まもる :1951年8月8日生まれ。タツノコプロでアニメのキャリアをスタート。スタジオぴえろ時代に手がけた『うる星やつら』が評判となる。劇場版第2作『ビューティフル・ドリーマー』は人気を博したが、初のオリジナル作品『天使のたまご』以降作品が途絶えている時期もあった。『機動警察パトレイバー』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』『スカイ・クロラ』など劇場アニメや『アヴァロン』『真・女立喰師列伝』などの実写映画を精力的に監督し続けているほか、小説作品も多い。『イノセンス』では日本SF大賞を受賞。
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