秘身譚 1巻 読了
伊藤真美/著 講談社/巻 20101117第1刷581円 講談社コミックス
物語が開始した一コマ目でいきなり殺されてしまったカラカラ帝。表紙でちょっと無念の活躍をさせてもらっていますが、愚帝とも賢帝だったのかもしれないとも云われている皇帝です。ストーリー中にも出ているカラカラ帝の功績の中で最大のものは風呂場を作ったことではなく、帝国に住む人々全てに市民権を与えてしまったことでした。例えるなら現在のアメリカ合衆国で移民の人々全てに市民権を与えてしまったようなものでしょうか。もしくは在日の人々に日本国籍を無条件で与えてしまうような。現代の価値基準で考えるならば博愛精神に基く素晴らしい政策としてノーベル平和賞も夢ではないかもしれません。ですが21世紀においても国籍修得はなかなか難しい条件なのは何故かを考えたとき、約2000年前にそれほどの政策を実行してしまったが故にローマ帝国の滅亡を早めたのではないか、とも云われています。しかし、当時の人々にこの政策がもたらすデメリットを理解できなかったらしく、カラカラ帝を謀殺したマクリヌス以降撤回する皇帝はいませんでした。
ローマ皇帝は終身制であり、引退してもらうにはクーデターか暗殺以外の方法がありませんでした。リコール制度が無かったせいなのですが、東洋的王権制度の中では当然のような気がします。ですけどローマ皇帝はこのカエサル=“皇帝”の翻訳のしかたがイマイチなのですが、共和制時代に元老院とは別にローマ市民による直接投票によって決められた執政官が母体になっており、任期が一年と決まっていて、行政を行うには任期が短く、巨大な版図となったローマを仕切るには時代遅れのシステムと成ってしまったため、長期的視野で政策を執行できる機関の創設をユリウス・カエサルの手で作り出されようとしていました。元老院で承諾をとろうと議場に入ろうとしたその時、有名な暗殺があったわけです。初代皇帝アウグストゥスはジュリアス・シーザー(英語読み)=ユリウス・カエサルの養子であり、カエサルの弟子であるアントニウスや政敵ポンペウスを打ち破っての皇帝就任をしています。東洋における王権のような血筋の正当性などよりは実力がモノを云う“政治”でありました。その制度を色濃く受け継ぐのがアメリカ合衆国の大統領制度かと思われます。
マクリヌスが作中の演説の最中先帝の肩書きを述べる中に「最高神祗官」を入れているのもユリウス・カエサルが最高神祗官の肩書きを持っていたことに由来します。さらに「護民官」についても面白い由来なので調べてみてください。
ローマ帝国の“帝国”たる所以は“皇帝”も含め民族や血筋によらず個人の実力によって運営された事ではないかと思われます。以上ほとんどのネタが塩野七生著「ローマ人の物語」。
マクリヌスがカララカ帝を倒した、まさにその時地中海東岸に栄える属州都アンティオキアが物語りの舞台となります。ローマから派遣された兵でありながら、アンティオキアの闇経済をまとめあげる“グナエウス・ドミティウス・ポリオ”と彼と共に住む“エラ”。二人を中心に町の実力者達の思惑と、皇帝位を巡る暗闘が始まる。そしてエラに秘密も…。
絵良しストーリー良し設定良し、薀蓄語るもよし、時代を越えて人の生き様や業を語るも良し、壮大な大河ドラマの幕開けのような気がします。拙者も素晴らしいマンガの幕開けに立ち会えて幸運です。
時代は異なりますがヤマザキマリ/著「テルマエ・ロマエ 」や岩明均/著「ヒストリエ」の併読をオススメします。
内容説明:賢帝が治むる「人類が最も幸福であった時代」から数十年が過ぎた紀元3世紀。世界最強の帝国・ローマは、政治の腐敗、蛮族の進入、続く外征で疲弊し、ゆっくりと、だが確実に、その力を失い続けていた。そして東方にて起こった皇帝・カラカラの暗殺により、全ては大きく変わり始める――。中世ダークファンタジー「ピルグリム・イエーガー」の実力派が、幻想とロマンに満ちた古代世界を描く!“良き死出の旅を――”紀元217年、皇帝カラカラの暗殺を機に、世界最強の帝国ローマは大きく揺らぎ始める。帝位を簒奪した新帝マクリヌスは、東方の要アンティオキアで地位を安定させるべく、街を闇から牛耳る軍士官、Cn・D・ポリオを逮捕せんと画策するが‥‥? 爛熟と退廃そして神秘と幻想に満ちた古代地中海世界を、美麗なビジュアルで描く、歴史ロマン幻想譚、堂々の開幕!!(アマゾンより引用)
(『マガジン・イーノ』(月刊少年マガジン増刊)掲載)
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