日本はアニメで再興する 読了
~クルマと家電が外貨を稼ぐ時代は終わった~ 櫻井孝昌/著 アスキー・メディアワークス/刊 20100410初版743円 アスキー新書
2009年タイ、フランス、イタリア、韓国、スイス、スペイン、ブラジル、ロシア各国で日本外務省が関係し開催された日本を紹介する所謂“ジャパン・フェスティバル”のプロデューサーとしてファッションおよびマンガ・アニメを企画し、著者自身がマンガ・アニメの講演を現地で行った記録を簡潔にまとめた本。現地の熱気をなんとか伝えようとする著者の文章に、著者自身の人柄の良さが現れ、またファッションとアキバ系に特化しているとは云へ、“日本”が注目されていることに面映さと自尊心をくすぐる内容となっています。
原宿が世界ファッションの情報発信地の一つとなり、“コスプレ”が注目を浴び、アニメ・マンガが世界中に浸透している現在、文献やモニターに映る情報としての日本や日本に興味のある仲間等、オリジナルのそして生の“日本”を求め世界中の若者が“ジャパンフェスティバル”に殺到している現状を語っています。それに対し、日本のリアクションが薄く、このギャップをなんとかしたいと云う著者の想いもまた伝わってきます。
シルクロードをラクダで行き来した古来より「人・物・情報」の移動が経済活動そのものと云うのではないでしょうか?拙者は経済関係に全くもって疎いので間違っているでしょうが、主観の話を続けます。かつては人が情報を運び、物に付随して情報が運ばれました。三蔵法師は“お経”と云う「情報」を得るため命がけの踏破をしました。それが今や情報だけが移動し価値を生むようになりました。先ずは“お金”。貨幣紙幣の動きが無くとも「金額」をやり取りするだけで“価値”が生じるようになりました。価値は上昇するばかりでなく下降もします。そして今や全世界的にネットワーク化されました。そしてちょっと前までは人が口伝えで運ぶか、書面で運ぶか、20世紀になって無線や電話で伝えられていた“情報”が、図面だろうが画だろうが動画だろうが瞬時に世界中に個々の元へ伝達できる世界が到来しました。インターネットの誕生と整備により地球の反対側へもタイムラグ無しで情報が伝わるようになりました。
拙宅も含め日本語で書かれた文章は日本国内で閉鎖しているように見えますが、例えば拙宅「googleブログ がちょーん」の統計を見ると世界中から接続されており、拙者が確認しているだけでも中国圏のブログにリンクが貼られていた項目までありました。先日初めて統計の項目に気がついて表示したのですが、流石世界のgoogleだけの事はありますなぁ。驚くばかりであります。
このインターネットと「マンガ」「アニメ」「ファッション」「音楽」は相性が良かったと見へ、世界中相互に浸透していくことになりました。その中で地理的要因により、また日本語と云う独自の言語圏であった日本の数々の“文化”が世界中に発信され、“No.1”ではなく、“only one”の数々が受信されていきます。無論インターネットが普及する以前に数々の伏線があり、エコノミックアニマルや農協ツアーと現在の中華人民共和国の様に世界中で揶揄されたり、クルマや家電を輸出しまくり、ヨーロッパでテレビ局が民間で開局された時期に番組の制作が追いつかず、日本のアニメの需要と供給があったモロモロの出来事が現在の“ジャパン・フェスティバル”の隆盛に結実しているのでしょう。
ところが“ジャパン・フェスティバル”で熱狂している中に日本人の姿は数えるしかなく、日本関連の品々が飛ぶように売れているのに、この商機を生かしていない日本は何とする、と云うのが著者桜井孝昌の主張のようです。
経済に疎い拙者ですが、少品種大量生産のクルマや家電と違って、出版関連(アニメも含め)は多品種少量生産です。多品種少量生産が輸出向けの産業かと云われると、学校でそうは習っていなかったと記憶しています。ファッションに関してはヨーロッパを中心に世界的に輸出や店舗進出のモデルケースが多数存在しているので、参考例に尽きません。しかし最早伝統産業へと成り下がった家内制手工業の日本映画産業が独自に海外を市場にするには無謀を通り越して滑稽ですらあります。それでも映像産業はUSAに限らずカンヌやら“映画祭”がヨーロッパ各国で行われ映像作品の売買が行われているので、その末席に加えてもらうだけで世界へ打って出る事は可能です。しかしTV番組の一部門としての「アニメ」となるとディズニーやルーニーテューンの事例があるだけで、USAの国家事業としての産業とは比較することすらできません。まして「アニメ」に付随する形で発展したアニメ・グッズの数々やフィギュア等「キャラクター商品」は日本の国内流通ですら、一部の大都市のみを対象としており、先ず日本全国に同一番組は放送されていない事を認識した上で、各県毎の特色を鑑み、関東地方を中心としたアニメ放送とその人気がキャラクター商品の売れ行きを左右している以上、日本の放送局のコントロールが出来ない海外においてキャラクターグッズの販売は冒険以外のなにものでもありません。600万部発行を誇った当時の週刊少年ジャンプですら沖縄へ届けるのに時間も輸送費もかかり、離島の大半に至ってはジャンプを届けることすら出来ない状況で、地球の反対側のヨーロッパで物販が出来るとはとうてい考えられません。
ヨーロッパでオタク向け物品の販売が出来るとしたら、小回りの利く個人貿易によるピンポイントしかないでしょう。もしくは一年とか二年海外で社員を自由行動させられる企業体力を持った大企業(日本の出版業界に大企業は小学館・講談社しか存在していませんが)。それでも例えばコンテナに積み込んだ物品を飛行機と船とどちらで輸送するかから始まり関税やら何やら手続きは数限りなくあります。飛行機輸送なら時間は直ぐですが、経費は跳ね上がり、小売金額に跳ね返ります。船便ならヨーロッパへは約半年(今はもう少し早いのかな?)かかり、物が到着した時には現地の人気が無くなっている可能性すらあります。クルマや家電だって現地工場での生産をするのは何故かを考えればわかるでしょう。やはり日本の仕様がそのまま現地で受け入れられるわけではありません。玩具「シルバニアファミリー」が世界各地で売れているようですが、各国毎に特色ある色があったり、その国独自の受け入れられる動物がおり、それぞれ細かく対応しているとかつて日経流通新聞に掲載されていました。
書籍としての「マンガ」であれば言語の壁は越えようがありません。日本で印刷したものが売れるのは一部のマニアかインテリのみで、大量販売には程遠いとしか云いようがないのでは。
否定的な事ばかり並べ立ててしまいましたが、商売人が商機を見逃すはずがありません。採算がとれないから行動しないだけでしょう。ましてやアメリカで日本のマンガを翻訳している会社の一つが、マンガ部門の縮小整理をしています。必ずしも商売として“書籍マンガ”が拡大しているわけでは無いと思われます。インターネットと海賊(版)性であることが浸透理由の一つなのではないでしょうか。
また、インターネットその他の断片的情報しか無いが故の“熱狂”もあると考えられます。平安時代雑密しかなく大陸へ真理を渇望して渡海した空海や最澄らに続く僧達や、江戸時代の長崎に集まる日本中の秀才達、そして明治時代世界中へ送り出された若者達、完全に拙者の主観ですが太平洋戦争の敗戦により帰国を余儀なくされた世界へ一度は散った日本人達、記録や足跡により時代を越え彼ら日本人が海外の情報を渇望していた事が良く解ります。それと似たような事が日本に対し行われているとするならば、日本のすべきことは、売りに攻勢をかけるのではなく、受け入れこちらが赤字になろうとも“もてなす”事こそが重要なのではないかと、本書籍を読んで考える次第。
出版が2010年4月10日であり、奥付のページに
「本書に掲載している情報及びデータは、2010年3月20日現在のものです。」
と有りながら、冒頭本文一行目に
「2011年11月4日朝、私は氷点下のモスクワにいた。」
と書かれていました。
まあ、誤植なんでしょうなぁ。拙者も人の事は云えませぬが…。
内容(「BOOK」データベースより):世界各地で催される日本紹介イベントには数万人が集まり、マンガ本が飛ぶように売れていく。現地の若者たちは日本語でアニソンを歌い、夢は原宿や秋葉原に行くこと。だが当の日本人がその現実に気づかず、いまだ富士山と伝統芸能ばかりを海外に発信している。そのミスマッチを豊富な現地取材から詳らかにし、新たな商機を提案する。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より) 櫻井 孝昌:1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。出版社を経てラジオ番組やウェブサイト、音楽PV等のプロデュース、ノンフィクション作品の執筆等を手がける。現在は世界における日本のポップカルチャーを研究し、欧州やブラジルなど世界16ヵ国延べ38都市で文化外交活動を実施。外務省アニメ文化外交に関する有識者会議委員、カワイイ大使アドバイザー等の役職も歴任(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)(アマゾンより引用)
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